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回転する絆

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朝から彼はソワソワしていた。朝食のトーストを一口食べては、「ねぇ、今日いつ行くの?」と目を輝かせて聞いてくる。その目に負けて、予定より早く家を出た。あの小さな掌に握られたお金を見たとき、なぜか胸が締めつけられた。

おもちゃ売り場のベイブレードコーナーは、小さな戦士たちの聖域だった。彼が選んだのは、深紅のボディに金のパーツがきらめくベイ。名前を口にするときの誇らしげな顔といったら…。その姿に、ふと、僕もかつて似たような顔で父にミニ四駆を選んでもらった記憶が蘇った。

家に帰ると、すぐにバトルが始まった。
第1戦、父、勝利。
第2戦、父、勝利。
第3戦、息子、涙目。

…やりすぎた。勝ちたい気持ちが、父としての優しさに勝ってしまった。
でも彼は、涙を拭いて、こう言った。
「次は、絶対に勝つから!」
その言葉に、心の中でガッツポーズをしたのは内緒だ。

そして迎えた第5戦目。
彼のベイが奇跡のような回転を見せた。
「お願い、負けないで…!」という小さな声が、聞こえた気がした。
その瞬間、僕のベイが弾かれて外に飛んだ。
静寂のあと、彼の叫び声が部屋中に響いた。
「やったー!!」

僕は負けた。でも、こんなに嬉しい負けは初めてだった。

夜、息子が寝る前に言った。
「今日、いちばん楽しかった。またやろうね」
その言葉に、静かにうなずいたあと、僕はもう一度、あのバトルを心の中で再生した。

回転しながらぶつかり合い、最後に残るものは——
そう、それは「絆」だった。

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